白山

ある日。
スーツ姿の紳士がご来店。
よく通る道にある建物からなにやら人が出入りしていることに気づき
ここはお店ですか？と初めて入ってこられました。
ここは喫茶店です。と伝えるとコーヒーを注文してくれました。
その紳士と何気なく世間話をするうちに、なぜか金沢の話になりました。
「今度のお休みに金沢に行く予定なんです」と言うと
「じゃあ、金沢に日本一のお寿司屋さんがあるから行ってみるといい。
　とってもおいしくてびっくりするよ。日本一なんだけどね、とても
　アットホームなところ。おいしいし、いい人だし、いいところだよ」

その後もその紳士とお互いの歳のことや仕事のことで盛り上がりました。
その方は71歳。歳を重ねて初めて少しは人の役に立てているのかもと
思えるようになった。それが嬉しいし、ありがたいのです。と話して
くれました。

早速、そのお寿司屋さんを調べて電話で予約をしました。



そして金沢へ。
立ち寄ったコンビニで友人が雑誌を手にとり「こ、これは！」と驚きの声
をあげたので、その手元を覗いてみると、ある雑誌に「地方寿司ブーム」
の特集が組まれていて、予約したお寿司屋さんの名前が表紙にありました。
すごく見たい、見たいけど明日行く場所だし今はガマンしよう！と雑誌を
棚にぶるぶると戻しました。

スーツの紳士の言うとおりでした。
大将も、たまたまお隣でご一緒させていただいた方も70歳をとうに過ぎて
いて、そしてとてもいい笑顔をされています。
来てくれるいろんなお客さんから力をもらっている、それだけ、と
じっと目を見てニッコリ。忘れられない笑顔です。
お隣の紳士は温泉宿をされている方で、屈託なくいろいろなことを教えて
くれました。こんなふうに歳を重ねたい、と思いました。
お連れのご婦人も盛岡のことをよくご存知で嬉しくなりました。
そしてイタリアから料理の修行に来られているという女性。
海苔のおいしさに驚いていたのが印象的。
おいしいものの前では理屈はいらないし、みんな同じなのだと思いました。
幸せで美味しいひと時でした。

さて、食べ終わって雑誌を探しましたが見つかりません。
結局盛岡に帰ってきてから手にしてゆっくり思い返しながら読みました。
すると隣あわせた紳士のお名前も掲載されていました。

あの時あの場所でなければ体験できなかったのだなと思います。

金沢から帰って来て久しぶりにメールをチェックをすると、数年前東京から青森に
転勤する際、東京最後の日に集まってごはんを一緒に食べた方からメールが届いていました。
池袋の書店で偶然「てくり」をみかけたこと
勇気を出して入った目白のお店で偶然cartaの話がでたこと
池袋の書店の「てくり」の棚を担当していた書店員の方も一緒だったこと
が書かれていて、最後に
「その場にいたみんなで人のめぐり合わせの妙に微笑みあいました」
とありました。

まさに「めぐり合わせの妙」。その一言につきる毎日です。